第9章 猫には猫の正しさ

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だけどまあ、過ぎたことは仕方ない。とりあえず今は保護してるわたしたちがこの子にできるだけのことをしてあげるだけだ。一晩入院してひと通り検査を受けて、今は体調も落ち着いてるとお墨付きをもらってめでたく引き取ってきた母猫は、案外すんなりとエニシダさんの家に馴染んだ。 思うに出産が間近なのは本人も感じていて、落ち着いて備えられる場所を探していた折だったんだろう。静かで安全なところに保護されたのを理解して、だったらもうここで産もうと心を決めたんだと思う。 産み月が近いせいもあるのか、ゆったりと落ち着き払ってそわそわしたり騒いだりしない。小さめな身体と小作りな顔立ちのせいで仔猫から大人になりかけくらいに見えなくもないのだが、人生(猫生?)経験は充分積んだとばかりに悠然としていてあまり子どもっぽいところがなかった。 「お母さんになろうっていうんだから。今は仔猫みたいなガキっぽい振る舞いはしないのかもしれないね」 そう言ってソファでうとうとしている彼女を撫でると、例によってダイニングテーブルに座ってこちらを見ているエニシダさんが何やらさらさらとスケッチブックに描きつけながら、のんびりした声で口を挟んできた。 「どうかな。もともとの性格かもしれないよ。何となく、こいつはこういう奴なのかなって。そう感じるんだ。子どもが生まれたあともきっとそんなに変わらないと思うよ」 もしかしたら、彼の場合人間よりも猫の気持ちの方が共感しやすいのかもしれない。     
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