第10章 ミイ、ミヤ、ミウ、ミオ

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「お前だって。これからは生活を気にしないでひと息つけるよ。疲れてるならしばらくゆっくり休んでもいいし、やっぱり何か始めたければしっかり準備をして取り掛かればいい。書きたいものがあるなら日銭を気にしないで長いものにじっくり取り組むことだって…。勿論、もう仕事なんかしたくないっていうんなら俺はそれでも構わないよ。向井はもともと自称コミュ障だしな。お前には引きこもる権利だってある。それで気が向いたらそのうち、子どもを産んで育てることだって」 「…青山くんの子ども?」 「そうだよ」 そんな。…あっさり肯定されても。 じわじわと当惑が胸いっぱいに湧き上がる。青山くんと入籍して、彼の奥さんになる。彼の部屋に一緒に住んで、抱き合って眠って。リアルに家事をして(なんちゃってサービスじゃなく)、甲斐甲斐しく世話を焼く。そしていつか、この人の血を分けた子どもを…。 力なく首を振った。全然想定してない、そんなこと。 いきなり言われても…。 「そんな。…つもり。全くなかったし。考えてみたことも…。だいいち、順番が違うよ。恋愛関係になったこともないのに。結婚したり子どもを作ったりって。普通相手のこと、好きになってからでしょ?」 「どうして?恋愛なんか結婚の必要条件じゃ全然ないよ?」 あっけらかんと反論され戸惑う。そりゃ、まあ。世の中にはマッチングサービスとか。古くにはお見合いだってあるわけだから。結婚のための結婚だって…。 彼はむしろ愉快そうに、屈託のない明るい口調で続けた。     
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