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初めは不思議な人だと思った。
その人は私が学校へ向かう途中にある大きな公園でいつも猫と戯れているのである。それも公園の端の方にある木の上で器用に枝を使い横になりながら自分の腹に猫を乗せぼんやりとしている。
気になったのはそこだけではない。一番目を引いたのは彼の着ている服が私の通う高校の制服だったことだ。同じ学校にいるはずなのに私は彼を一度も見たことがない。
なぜそう断言できるのかという理由は彼の容姿にある。遠目で見えるだけでも切れ長で憂いのある瞳にすっと通った鼻筋、陶器のように白い肌。まさに美を体現したかのようだ。
私の通う高校は全校生徒三百人程度の小さな学校だ。そんな狭い区域でこれ程目を引く容姿であれば私の耳にも彼の噂は届くはず。
少し疑問にも思いつつも彼から目を離し高校へ向かう。ここは田舎ということもあり、学校までの道のりは長い。いつまでも見ている訳にはいかない。
「あ、おはよー」
教室に着くと一番仲のいい友達が挨拶をしてきた。彼女に倣って同じように挨拶を返す。
そして挨拶の流れから私は公園で見かけた彼のことを聞いてみることにした。彼女はイケメンに目がないためこういった話題は得意分野だろう。
「ねぇ、あのさ……」
彼の容姿や公園のことを彼女に詳しく説明したが思い当たる節がないのか、彼女は首を傾げていた。どうやら彼女は一度も見たことがないようだった。
「それより聞いて欲しいことがあるんだー!」
彼女は話を切り上げ、違うことを話し始めた。しばらくその話に付き合った後で私は自分の席に戻った。
休み時間や集会の時などそれとなく彼がいるか確認してみたがそれらしい人はおらず、収穫は得られなかった。
そして何か特別なことがあるはずもなく、あっさりと下校の時間になった。
「……あ」
彼がいることに気づき思わず間抜けな声が出る。いつもの様に彼は猫を撫でていた。
「あの、猫好きなんですか?」
なぜ声をかけたのかは私にもわからなかった。
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