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 私が里下がりをする先はもちろん父の家だし。継母との関係も悪くないというか、むしろ良いのよ?私は落窪の君じゃないんだから。  そんな折に、私に歌合に出ないかという話が来た。  これからは私の時代よ!「小式部」なんて女房名を何かに変えてやるわ。でもまあ、「橘式部」くらいにしておくか。母親は母親だもの。ってなわけで、私は初めて出ることになった歌合にワクワクしている。  下っ端女房の私はよく御簾(みす)の近くに座っている。ここからこの歌合でどこまで上に上がれるかしらね。いくら母が帰ってきたいと行ったって、その場所はないことにしてやろうと、私は古歌を学ぶべく、「古今和歌集」を昼に夜に読んで研究してる。そりゃ全部覚えてないわけじゃないです。しかし、念を入れて「万葉集」と合わせて総復習というところよ。  私が「古今和歌集」を読み直しているところに、御簾の外から声がした。 「丹後のお母さまに文を出しましたか」  私は御簾に突進して、声のしたところに突撃して、その声の主の裾を掴んでやった。  言っておくけどね、私は裳着をするまで腹違いの弟たちとしょっちゅう蹴鞠(けまり)をして遊んでたのよ。  自慢するけど、私が一番うまかった。  そこにいたのは右中弁(うちゅうのべん)定頼(さだより)の君だった。  こいつか。  私の怒りはますます募った。     
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