君を走らせに来た

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腕時計を見る 0時34分 京成線はこの踏切を数秒の狂いもなく 0時40分に通過する 学生時代の僕の50メートルの最速記録は 6秒15 0時39分54秒にこの位置から 目を瞑って走り出し 降りきった遮断機を無視して突っ込めば 何も考える暇もなく一思いに電車が僕を… 何も心配はない 「何も心配はない。」 僕は材木店の前に荷物を置いて 少しの間  誰もいない店のシャッターに頭を下げた 「…しらない店の人、ご迷惑お掛けします。 きっと気味が悪いと思うけど 気にせず捨ててください。」 0時33分 「さようなら福田課長。 経理の佐伯さん。 ライバルだった大木くん。 佐藤、梅田、秋野。 受付の美咲ちゃん。 じつはちょっと好きだった。 さようなら。」 空に向かって思い付く限りの人に 別れを告げる スニーカーの紐をぎゅっと結ぶ 目を静かに閉じた そして 0時39分54秒 僕は走り出した
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