霧幻

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   茹だるような暑さの中、駅のベンチで電車を待つ。駅の構内だと言うに蝉の声が大きく響き渡っていた。先輩からメールが来る。また場所を間違えていたらしい。もうすっかり慣れてしまったので、気にもならない。ラムネを一気に飲み干すと反対車線の電車に乗り込む。  夏が来れば思い出す。あれはまだ駆け出しだった頃。あの日も今日のように暑かった・・・・。  -S県M村ー  その日の取材の帰り道、私はとある穴場の心霊スポットの撮影を行うことにした。理由は先輩に頼まれたからだ。たまたま取材場所から近かったことや普段から色々お世話になっている方でもあったので二つ返事で請け負ったのだ。  正直な話、夜の撮影なら断っていただろう。人けの無い夜の廃墟と言えばはあらゆる面で危険度が増すのだ。昼間で外観や中を適当に撮ればいいだけならなんとかなるだろう。  これから向かう場所はN荘と言うペンションで山の中腹にあるようだ。なんでも地元では有名な心霊スポットらしく、40年ほど前に心中事件があったらしい。出火により半壊したらしく、そのまま放置されて今に至る。その日から夜な夜な心中した夫婦の幽霊が出るらしいのだ。  そうこうしている間に車は駅に着いた。照りつける太陽の中、単線のローカル駅に人けはない。ロータリーに車を止め、駅の休憩場で一服する。木製の休憩場には蝉がいてミンミン鳴いている。  行き先はこの駅前の道を真っ直ぐ行き、2つ目の信号を右に曲がるだけのシンプルコース。とっとと撮影して帰ろうと思ったのだ。  駅前から離れると緑色が左右に流れる。田舎には信号が少ないせいか、思ったよりも右折するのに時間がかかってしまった。ここを真っ直ぐ走ると小さな橋があり、その先の山道を進むと左手に見えてくらしい。  予定通り小さな橋を超えると薄霧が出てきた。前はまだ視認できるのでスピードを落としてゆっくり走る。    山道を進むと森の開けた場所に出た。遠くに子供達が遊んでいるのが見える。今は夏休みお盆期間でもある。私も子供の頃は山でカブトムシを捕まえたり、お祭りで友達と遊んだものだ。  子供達の安全を祈りつつ先を進んだ。ほどなく左手に廃墟が見えてくる。ペンションの看板は風化しているが辛うじて認識できたのでここが目的地で間違いない。  
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