霧幻

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   車を止めると撮影を開始したのである。正面から見ると建物の体裁は取れているものの、横手に回ると出火の影響か壁が倒壊して中がさらされている。  そこから中に入るとがらんどうとしていて、燃え残った食器棚が置いてある。食堂だったのだろうか、食器のかけらが散乱している。焦げがひどいので出火元かもしれない。  奥のほうは比較的原型を留めてはいるものの傷みが激しい。階段も半壊していて2階には上れそうにない。  とりあえず写真を撮って回って確認してみる。特に何も無い。ただの廃墟が写っているだけである。廃墟特有の落書きもなく、予想以上に穏やかに自然と朽ちているようだった。  何か釈然とはしないものの役目は果たしたので帰ろうとしたとき、後ろから声がかかった。  「ここで何してる?おじさん」  急に声をかけられて気が動転してしまった。見ると小学生ほどの女の子が立っていた。さっき見かけた子供の一人だろうか。  「いや。何と言うほどのことはしてないんだけど。写真を取ってるんだよ。ここでお化けでるって話で君も聞いたことないかい?夫婦が心中したって・・・・」  「心中じゃないよ。殺されたんだよ。」  少女の鋭い切り替えしに言葉が詰まる。まるで空間が切り取られたかのように時が止まった。  「警察の人に殺されたんだよ」 少女が紡ぎだす言葉に圧倒される。この少女はいったい。  「君は・・・・・」  何とか言葉を発しようとしてみる。  「ハナちゃーん」  外から声がかかる。他の子供のようだ。  「はーい」  少女は走って出ていった。残されたまま蝉の声だけが聞こえる。僅か1分にも満たない間だったが濃密な時を過ごした気分で、暑いはずなのに寒気を感じた。  しばらく立ち尽くしたのち帰路につく。車の中で今日の出来事を整理してみる。もちろんあの少女の言葉についてだ。  
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