霧幻

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   「あそこについては知っとるよ。仲のいい夫婦がペンションやっててなぁ。あるとき火事騒ぎがあったんじゃよ。結局夫婦が心中したって話になったが心中しそうな人にも見えんかったよ」  もしやと思い娘さんがいたかどうか聞いてみた。  「いや。子供はいなかった。じゃがペットでタヌキを飼っとったよ。珍しかったし、人懐っこかったなぁ。確か花子って名前つけられとった」  さらに先日体験したことを話してみる。  「ふむ、そもそもあの辺りでは子供は遊ばんしな。今の子供は家でピコピコやっとるし。兄さん夢でも見たか、化かされたんじゃないかな?」  ガハハと笑いながら住職は行ってしまった。  夢ではないはずだ。写真を確認する。まだ原型を留めている姿が映されている。ペンションの表の写真を見ると犬小屋は写っていなかった。ここだけは現実と異なっている。帰る車の中でこれまでのことを振り返ってみた。  誤った道から辿り着いてしまった朽ち果てる前のペンション。  今思えば子供たちも古い格好をしていた。自分の昔の記憶や田舎だからと気にしてなかったが現代にはあまりそぐわない。  今思えば、気が動転していたとは言え小学生のような少女に対して心中の話を持ち出したのもおかしかった。まるで見えない事象に言わされていたような。  さらに地元でも有名なスポットと言う触れ込みがあったらしいが実際はそんな事実はなかった。  子供のいない夫婦が唯一飼っていたペット。これらを鑑みるに。  「つまりタヌキに化かされたのかな」  昔からキツネやタヌキと言った動物が人を化かすとよく言われている。あの女の子がタヌキだったのではないか。心残りがあったのか、おそらく夫婦死の真相を伝えたかったのではないか。  タヌキの寿命は知らないがおそらく40年も経っていれば生きてはいないだろう。あの風化していない時間軸ならあるいは。  あの少女は警察の人が殺したと言っていた。どんな理由で凶行に及んだのかわからないが制服を着て犯行に及ぶとも思えない。おそらく日頃からの顔見知りではないか・・。  しかし40年も前のこと。事件の当事者も生きてはいまい。所詮は根拠のない推理。今はあの世で夫婦とタヌキが出会えてますように心の中で祈ったのだ。
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