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『ああ、埃っぽい。なぜ窓を開けてくれなかったの』
『腰が痛むんだよ』
『ええ、知っているわよ。歳だって事くらい』
失礼なことを。
彼女は窓の右側に小さなベンチをみつけると、ハンドバックからパイプを取り出した。私が去年、上質で美味い葉と一緒に包んでプレゼントしたもので、オイルのきらめきが空の青を反射して光っている。
なんだか私は嬉しく感じた。
彼女との会話は、今日も、凶暴なハリネズミと戯れているようだったが、パイプを使うのを見たのは久しぶりだったのだ。なにしろ彼女は私の見えるところで吸おうとはしなかった。
『なあ君、いつもありがとう。手伝いをしてくれて助かってる』
『別にいいわそんなの。ええ、どうだっていいのよ。さしあたっての大きな、とてもおおきな問題は、なんと今日からその席が私のものだって事ね』
『もう少し待ってくれないか。この椅子の事は保証するよ。香りは、分からないけど』
『もちろん座り心地は心配しないけど』
木枠の外へ、そっぽを向いた彼女の顔の右半分が見えないまま、そのままほんの少しだけ、壁の時計は気持ち良く鳴り続いた。
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