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その結衣から久しぶりに連絡があった。LINEのアイコンは昔のままだった。それは外国の街の風景だった。彼女は建物の高いところに立って砂漠を見つめ、カメラに背を向けている。砂埃が舞っているのか空はやけに霞んだ青色をしていた。啓介はそれがどこか知らない。結衣がいつの間にか啓介の前から消えてしまった後、きっと結衣はこの見知らぬ街に行ったのだと、啓介は直感的に推測していた。
ー 今度会えないかな?
メッセージはそれだけだった。6年振りに連絡をするのだから、”久しぶり”とか、”元気?”とか、枕詞になりそうなフレーズは沢山ありそうなものだが、昔から結衣はそういうステップを面倒臭がる傾向にあった。きっと結衣は風の噂で啓介の近況をある程度知っているのだろう。しかし、風の向きは偏っていて、啓介には結衣の噂は全くと言って良いほど届かなかった。だから今まで、結衣のことは殆ど忘れかけていた。何回目かの夏の記憶として。
彼女は今まで何をして過ごして来たのだろうか。啓介はLINEでそのことについて聞きそうになったが、それは思い留めた。どうせ会うのだからその時に話をすれば良い。今の彼女には啓介の会うことが必要で、必要であるが故に啓介に連絡をとったのだ。遠い砂漠の国の見知らぬ街から、再び啓介のいる世界に戻ってくるのだから、啓介としては、結衣に会ってみない訳にはいかない。
啓介が紙ナプキンでグラスの水滴を拭うと、半分溶けた氷がカラリと音を立てた。効きすぎた冷房も、氷が溶けるのを止めることは出来ない。
もう直ぐ来る頃だろうと思って啓介は腕時計を見る。時計は14時になろとしていた。結衣はいつもオンタイムだ。5分でも早く来ることは、5分遅くなるのと
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