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「おうまがとき…?」
「さぁさぁ。来た道を辿れば帰れる。寄り道はせずまっすぐ帰るんだよ」
わたしの疑問には答えてくれない男の子の有無を言わさない空気感に怯んだ。
大きな木々に覆われているせいか木漏れ日が少ししかないこの神社。それでも木々の隙間から見える空はさっきまでは日がさんさんと照って明るかったのに、今は茜色に染まっていた。
いつのまに夕方になってたんだろう?
不可思議なことに首を傾げる。空気はいぜんとして澄んでいるが、少し肌寒く感じる。
目の前に立つ男の子はきれいな顔に笑みを浮かべるだけで何も言わない。その姿も相まってなんだか人間味が欠けているやつに感じた。なんというか、おば…。そこまで考えてその思考を頭から追い出す。さっきこの男の子も否定してたし、違う違う。うん、怖くない。
わたしは頷いてみせてからその子の隣をすり抜け階段のところまで行き、恐る恐る振り返る。
やはり、そこにはちゃんと男の子がいた。着物からは足が二本見える。やっぱりお化けじゃないよ。
男の子は笑みを浮かべてわたしが帰るのを待っているようだけど、わたしは勇気を出して男の子に向かって言う。
「あの、あなたは帰らないの…?」
男の子だってわたしと同い年くらいだしお家に帰るべきなんじゃ…。
「僕は大丈夫。ほら、見ていてあげるからお家にお帰り」
その言いように少しムッとした。同い年くらいなのに大人みたいな言い方なんだもん。
そんな私のことはお構いなしに、男の子は涼しげな顔で笑みを浮かべていた。その姿には有無を言わさない静かな威圧感があった。
わたしは後ろ髪を引かれる思いで階段を一段、二段通る。けれどもう一度振り返り、わたしは男の子に向かって言った。
「わたし、縁っていうの。お母さんの実家に夏休みの間だけきているの!また会ったらよろしくね!」
その時の男の子の顔は驚いているようだった。大きな瞳から目がこぼれ落ちそうなくらい開けていたのだ。笑顔以外の顔を見れたと満足する。もう怖いなんて思いはどこか遠くに去っていた。わたしは男の子の返事は待たずに背を向けて階段をおりる。
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