夏休み

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「うん、食べてないや」 「お惣菜買ってきたから一緒に食べようか。縁の好きな湊屋さんのコロッケだよ」 「やった!」 お父さんはビニールを持つ手を掲げてみせた。美味しそうな匂いがしてたから、もしかしてそうかなぁとは思っていた。 お父さんが手洗いに行っているうちに炊飯器からご飯を二人分盛り付けて、コップに麦茶を注ぐ。受け取ったコロッケもお皿に並べれば、夜ご飯の準備完了。 それらをテーブルに並べているところへ丁度お父さんが戻ってきた。 「用意してくれたんだね、ありがとう」 「ううん、早く食べよう」 テーブルを挟んだ向かいに座り二人で、いただきます、と手を合わせてからご飯を食べ始めた。 コロッケをお箸で掴み、そのまま口へと運ぶ。かぶりついた瞬間、口の中に美味しさが広がる。 やっぱり湊屋さんのコロッケが一番! これを味わってしまうと他のお店のコロッケは食べられなくなっちゃうな。 なんて考えていたら、お父さんが思い出したように話し始めた。 「そうだ、縁。夏休み、お母さんの実家に遊びに行かないか?」 「お母さんの実家…?」 「ああ。縁は赤ん坊の頃、一度だけ行ったことがあるんだよ」 わたしのお母さんは、わたしが小さい頃に病気で亡くなった。 元々身体の弱かったらしく、わたしを出産出来たのも奇跡だと親戚の集まりの時に聞いたことがある。 お母さんのことは覚えていないけれど、写真の中に映るお母さんは、優しそうできれいな人だなって子どもながらに思う。きっとモテたに違いない。 だけれど、線の細いか弱そうな見た目とは違い、結構豪快な人だったらしい。いわゆるギャップ萌えってやつかな。言うまでもなくお父さんは、今でもお母さんにぞっこんだ。 人伝えにしか知らないお母さん。 そのため、お母さんの実家と言われてもピンとこない。でもお母さんが育ったところがどんな場所なのかはちょっと気になった。 「ここから遠いの?」 「そうだなぁ、電車で2時間くらいで行けるかな。もちろん、縁が行くとなればきちんと車で送っていくよ」 「…行ってみようかなぁ。お母さんの生まれ故郷って見てみたいし」 わたしがそう言うと、お父さんは嬉しそうに笑った。 「のどかで良いところだよ。お義父さんとお義母さんにも連絡しておくから、都合がつけば今週の日曜日に行ってみようか」 「うん、楽しみだな」
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