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少ししてから、お茶菓子などをお盆に乗せたおばあちゃんが部屋に戻って来た。
出されたお茶を飲みながら、大人たちがたわいもない話をしているのを眺めていると唐突におじいちゃんから話が振られた。
「縁は今夏休みか?」
「はい」
「じゃあ明日は学校ないんだな?それならここに泊まっていけ」
「え、でも…」
「そうよ縁ちゃん。折角来たんだもの、ゆっくりしていってくれたら、おばあちゃんも嬉しいなぁ」
そう言われて驚き、お父さんの方を見る。
確かに一人でお家にいるより誰かといた方が寂しくないけど、わたしだけここに残ってお父さんを一人にしても大丈夫なのかな。
頭の中でそう考えていると、お父さんが口を開いた。
「縁はどうしたい?父さんのことは気にせず、縁がしたいように決めていいんだよ」
その言葉は、胸にすとんと落ちた。
わたしはどうしたいのか、したいように決めていい…。それならわたしはもう少しだけここにいたい。来たばっかりだけれど、居心地の良いこの場所にいたい。
「ここに残りたい、です…」
わたしの返答を聞いたおじいちゃんとおばあちゃんは嬉しそうにしていた。
お父さんは、おじいちゃんとおばあちゃんに向かって深く頭を下げて「縁をよろしくお願いします」と言った。
急遽、お母さんの実家に留まることになったけれど、いつもとは違う日常に胸がドキドキしていた。
その夜、お父さんは「明日は仕事があるから帰るね、夏休みが終わる前に迎えに来るよ」と言い車に乗って帰っていった。
こうしてわたしの一ヶ月だけの田舎生活が始まった…
のだか、想像を遥かに超えた夏休みを過ごすことになるなんて思いもしなかった。
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