コインロッカーの鍵

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コインロッカーの鍵

 引っ越し先の部屋でコインロッカーの鍵を見つけた。  タグに記載された住所を見ると、どうやら駅付近のロッカーの鍵らしい。  前の住人が荷物を預けたまま鍵を紛失したのだろうか。  取り出してやる義理はないけれどなんとなく気になったので、該当するコインロッカーを開けに行った。  ロッカーの中は空っぽだった。  推理ドラマで見るような品が入っているのではと、期待に盛り上がった気持ちが急速に醒めていく。  ロッカー使用状態になっていたから、わざわざ何も入っていないロッカーに金を入れて鍵をかけたということになる。  前の住人は変わりものだったのか。それとも、新たに越してくる人間にイタズラを仕掛けてやろうという性格をしていたのか。  何にしても、見に行っただけ無駄なことだった。いや、下手にヤバい物が出てきて事件に巻き込まれる、なんてことがなかっただけマシと思うべきか。  些細な無駄骨。そう思ってロッカーの鍵のことは忘れていたが、その日からどうにも部屋の様子がおかしくなった。  誰もいないのに何かがいる感じがする。変な物音がしたり、人の声のようなものが聞こえることもあった。それに、はっきりとではないけれど、部屋の中で人影っぽいものを見るようにもなった。  引っ越す前に調べたので、ここがそこそこ遡っても事故物件でないことは判っている。それに引っ越してきてしばらくは何もなかった。  何かこうなるきっかけはなかったか。  記憶を辿った俺の頭に、あのコインロッカーの鍵が浮かんだ。  ダメ元でロッカーの設置場所に向かうと、覚えていた番号のロッカーは未使用状態になっていた。  コインを入れ、鍵を引き抜く。それを部屋に持ち帰ると、不思議なことにその瞬間から怪現象はピタリと収まった。  あのロッカーに何かいたのだろうか。それが鍵を開けたことにより、この部屋にやって来たのだろうか。でもどうして?  俺には真相はさっぱりだけれど、とりあえずあのロッカーが閉まっている間は何事もない筈だ。  今は無理だけれど、そのつもりで金を溜めて、なるべく早くこの部屋を離れよう。もちろんその時には、ロッカーの鍵はこの部屋に置いて行くつもりだ。 コインロッカーの鍵…完
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