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夏が嫌いだと彼女は言う。
年齢的なものかとか仕事の関係でとか、普通の人間なら思わなくない事も、私には分かってしまう。
彼女が好きだから。
彼女は夏に初恋を奪われたのだ。
廃村になる私たちの故郷、そこで行われた最後の夏祭り。
彼女は告白し叶わなかった。
私はずっと見ていた。彼女をずっと、あんまりしつこいんで、これは恋か?悩んだが。ここまで苦しいので恋だと思う。
何年、十数年ぶりに会う彼女は相も変わらず夏が嫌いだった。
好きと言う執着を押し込んで。食事と酒を少しばかり呑んだ。
帰り際、酔いのせいか切ないくらい苦しくて思わず彼女の手をとった。
温くてしっとりとした女の手、自分と同じ女の手。
私は死ぬまで夏が嫌いだろう。
その理由を誰にも明かす事は無いだろう。
(了)
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