第1章暗雲

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この季節がめぐってくるのは何度目だろう。 あぁ、ワクワクする。この瞬間を僕は待っていた。流行る気持ちを押さえて僕は出番を待つ。まだだ...。まだ出るには早い。お?そろそろ良いかな??そろそろだ...落ち着け。落ち着くんだ。チャンスは一度しかない。僕はその瞬間を暗闇の中で待ち続けた。 「なぁ、ちーちゃん行こうぜー」 気だるげにそれでいて教師に聞こえないよう話しかけてきたのは後ろの席に座っている幼なじみの哲だった。 俺は彼を無視して、黒板の板書を書き移し続ける。正直、面倒事には関わりたくなかった。 夏合宿という名の夏期講習が開かれて一週間。俺たちは学校が用意した山奥にあるセミナーハウスで日夜勉強の日々を送っていた。もちろん、勉強だけの日々に健全な学生たちが大人しくしていられる訳がない。哲も勉強漬けの日々にしびれを切らした学生のうちの一人だった。 教師が黒板に一心不乱に文字を書きなぐっていく。それを書き移す鉛筆の音だけが教室に響いている中、哲は諦めずに話しかけてくる。 「なぁ、無視すんなって!おまえ、そんな真面目キャラじゃねぇだろ~。なぁってば!」
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