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卒業式が終わった教室で、俺と彼女は二人で向かい合っていた。
窓際の一番後ろの席は、高遠の席だ。彼女は席に座り、窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。その前に立った俺は、彼女と同じ景色を見つめている。
「先生……」
「なに、高遠?」
高遠は答えなかった。
俺は少し不満げに眉を寄せて言った。
「折角、今日で教師と生徒の関係も終わりなんだ。名前で呼んでくれていいんだぞ」
「……先生」
「強情だな、全く」
嘆息する俺を余所に、彼女は制服のポケットから一枚のメモ用紙を取り出した。
それは、俺が彼女に渡したメモだった。
卒業式の前日である昨日、今と同じ場所で俺は高遠から告白された。俺はそんな彼女の真摯な表情をまっすぐに捕らえながら、つい悪戯心が出てしまった。敢えて告白には答えず、メモに和歌を書いて渡した。
――卒業式が終ったら、またここで一緒に意味を調べような。
俺は彼女にそういい残して、教室を出て行った。
その言葉通りに、高遠は古語辞典を膝の上に置いている。
くしゃくしゃになっているメモを一瞥して、俺は小さく笑った。
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