卒業式

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俺は、最初の告白から何度も気持ちをぶつけてくる高遠を気に掛けていた。 そうして気付くと、高遠の姿を目で追っている自分が居た。授業中も休日も、彼女のことが気になっていた。それが恋だと気付いた時、俺はまず理性を保とうとした。 教師である以上、生徒と一線は超えられないという思いが、頭を支配していたからだ。 理性やプライドが前面に押し出されている俺とは正反対に、高遠は純粋な気持ちをぶつけてくる。それが嬉しくもあり、羨ましかった。 そんな風に煮詰まっていた俺の『いい加減にして欲しい』という一言で、高遠の告白はぴたりと止んだ。 「諦めたのかと、思ったんだ。けど……お前は昨日、また好きだと言ってくれて」 半年前と何ら変わらない、真っ直ぐな目で俺を見つめてくれて。俺は本当に嬉しかったんだ。だから俺はもう二度と自分の気持ちを誤魔化さないと決めた。 俺も好きだ、と直ぐに言わなかった事には二つの理由があった。 一つは卒業式が次の日だったこと。 二つ目は―― 「卒業式が終わったらな、俺からもう一度告白しようと思ってたんだよ」 高遠の手の平で強く握られ、しわくちゃになってしまったメモへ目を落とす。 「その和歌を渡して、俺の今まで溜め込んだ想いを伝えたかったんだ。そういうの好きだろ? 今まで焦らした分、ロマンチックなシチュエーションってのを演出したかったんだけど」  彼女は暫く眺めていた辞典をゆっくりと開いた。また意味もなくページを捲って遊ぶのかと思いきや、メモと辞典を交互に見つめた。 「何をやってるんだ?」 首を傾げて高遠の顔を覗き込む。辞典のページを捲る音がぴたりと止まった。 「君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな――これかな?」 「ん?そうそう、それ。ちょっと待ってくれよ、今更ながら恥ずかしくなってきた」  照れ臭くて、頬に熱が集中しているのが自分でもわかった。  
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