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ふいに、高遠は顔を上げた。
泣き疲れて眠っていたらしく、辺りはすっかり夕暮れに染まっていた。
涙で濡れた表情を隠すことも忘れて、誰も居ない教室を見渡す。
「……先生?」
高遠は夢の中で、確かに椎葉の声を聞いた気がした。
「えっと、あすかがわ、ふちはせに……」
今も耳に残る和歌の意味を調べようと、慌てて辞典のページを開いていく。
「あ、あった……」
和歌の意味を理解した途端、文字が滲んで霞む。
――何があっても、好きになった貴女のことは忘れません。
それは椎葉が最期に伝えたかった想いだ。その事を思うと、涙が止めどなく溢れてくる。
けれど、そんな涙を拭いながら高遠は笑う。
それは椎葉が見たかった、嬉しげに綻ぶ彼女の表情だった。
「先生。私、ちゃんと覚えておくからね?……絶対に、忘れないから」
小さく囁いた声は、暖かな西日が差し込む教室に溶けていった。
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