第五話 俺の心を覗いてくれ

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 それから和也は、暇があればパソコンに向かうようになっていた。  授業中や登下校時に思い浮かべた妄想を、自室で文章として書き起こす。それはすごく楽しく、なぜか満たされているような錯覚に陥った。  しかし、妄想は妄想だ。学校に行けば、まぎれもない現実に打ちのめされそうなる。  しかし彼の笑顔を見れば、どうでもよくなったような気がした。  そんな歪な恋は、高校卒業まで続いた。二年生の時はクラスが離れてしまったが、その間にも物の貸し借りや休日に遊びに行ったりもして交流は続いていた。そして最終学年には同じクラスに戻り、その間もコツコツと妄想小説を書き続けていた。  そんなある日。秋の放課後のことだった。和也は教室で一人日直日誌を書いていると、忘れ物でもしたのか誰かが教室に入って来た。思わずそちらに顔を向けると、彼の姿が。 「おお、まだいたのか」 「うん、これ書いちゃわないと」 「そっか」  彼はまっすぐ自分の机へと向かった。引き出しを探り、お目当てのものを取りだす。それを何ともなしに眺めていると、不意に彼の方が和也に質問を投げかけた。 「和也ってさ、進路どこ行くの?」 「え?」  どうやら忘れ物は、今日配られた進路希望用紙だったらしい。ピラピラとそれをはためかせると、彼は和也の座る机へと近づいてきた。
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