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第一話 黙ってやるから……
始まりが歪でも、肌を重ねればそれは確かなものになる。
これはそんな、二人のお話。
あるアパートの十五階。そのリビングで直哉はテレビを見ていた。片手にコーヒーを持ちながら、何となくバラエティ番組を流し見る。
もう風呂には入ったのか、固そうな黒い髪は少し濡れていた。浅黒い肌に、締まった筋肉質の胸がTシャツを変形させている。組んだ足とつまらなそうにテレビを見る目つきが妙に艶っぽかった。
ピンポーンと、チャイムが鳴った。振り返れば、ドアホンの画面がパッと明るくなる。
今日の来客は一人しかありえない。時計を見れば、約束の九時ちょうど。直哉はソファから立ち上がると、画面に目を向ける。しかし相手の顔は見えなかった。
恥ずかしがっているのか、それとも何か警戒でもしているのか。
「どうぞ」
相手は見てのお楽しみ。
直哉はマイクのボタンを押すと、そう告げた。続けてロビーの会場ボタンを押す。画面の端の方で、自動ドアが開いたのが見えた。
あと五分もすれば、玄関のチャイムが鳴るだろう。その間に少し準備でもするかと、直哉は台所に向かった。
飲みかけのコーヒーを飲み干し、軽くすすぐ。相手のためにもう一つカップを用意すると、中に氷をいくつか入れる。冷蔵庫から麦茶を取り出すと、ちょうどチャイムが鳴った。
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