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高校二年になって、先崎と同じクラスになったとき、
教室の隅にブラックホールを見つけた。
捨てたはずの記憶に、ずっととらわれていた。
先崎はとっくに、あたしのことなんて忘れて、ちゃんと別に好きな人を見つけて
しっかり前に進んでいたのに。
ほんとは、オレンジに染まったあの日の頬を、ずっと忘れられなかった。
あたしは、多分先崎のことが好きだった。
自分の気持ちに向き合うのが怖くて、
大切なものは捨てたふりで、いつも適当に周りに合わせて、
何ひとつ変われなくって、
ずっと何やってるんだろう、馬鹿みたい。
あたしは「彼氏」の手をとると、ずかずかと体育館を出た。
体育館の外は青空で、
傾き始めた太陽が、金色に雲をふちどっていた。
暑い暑いと思っていたけど、もう秋の風が吹いていて、涼しくスカートをふくらませた。
あたしは「彼氏」の手を握ったまま、
何か言いたい、言わなければならない気がして、息を思いっきり吸い込んだ。
逆光で「彼氏」の顔がよく見えない。
言葉が何も浮かばなくて、もどかしいまま、
「彼氏」の手を離せなかった。
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