0人が本棚に入れています
本棚に追加
残り8分。
里美の住んでいた社宅が左に見えてくる。敷地内の公園では子供達がキャッキャと遊んでいる。ここを右に曲がると大通りだ。一直線の大通りを信号に引っかからないことだけを祈りながら、少し腰を浮かせて漕ぐ力をさらに強くした。
昨年の4月、男子5名、女子2名の理科研究部に転校生が入部してくると聞いて僕は内心焦った。始業式初日に一目惚れしたあの転校生だったからだ。
そんなことなど知らずにやってきた転校生、里美は将来微生物の研究がしたいのだと入部早々アツく語っていた。
「トウモロコシだって代替燃料になるんですよ。微生物だってこれから化石燃料が不足する現状と、それに環境問題を考えた時に--」
ほかの部員は少しウザそうに聞いていたようだが、僕は違う意味で内容が全く耳に入ってこなかった。里美に見惚れていた。しかもこれほど近くで会話をしていることにドキドキした。
「もしかしたらまた引っ越すこともあるかもしれないから、研究ノートは細目に残しておかなきゃ。」
入部してすぐ里美が始めた研究ノートはすでに11冊目に入っていた。僕の研究ノートが6冊目であることを考えると彼女の研究熱心さがうかがえた。
最初のコメントを投稿しよう!