時すでに遅くなし

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残りはすでに1分を切っていた。 踏切が鳴り始める。 踏切の手前の道を左折して線路沿いに走れば駅に辿り着く。ここからは首にぶら下げたタイマーを確認する余裕なんてない。 とにかく最後の力を振り絞って自転車を漕ぎ続けた。 帰り際。 「最悪じゃん、ズボンの裾が汚れてるよ。今まで気づかなかったの?」 里美に言われて僕は足元に視線を落とした。 「もっと早く気づいてれば理科室で洗えたのに。」と言うと里美は鞄からハンカチを差し出して僕の手に握らせた。ほんの少しだけ触れた彼女の手は少し冷たかった。 終業式の前日、理科研究部の全員でお別れ会を開いた。 「研究は次の高校へ行っても続けていくつもりです。」と里美はにこやかに宣言したが、 「もう引退時期でしょ、とりあえず研究の続きは大学に入ってからにしてください。」と顧問に言われて残念そうな表情を見せた。 ひとりひとり、里美と一言ずつ交わしていく。そして僕の番がきた。 「あ、ハンカチ、持ってくるの忘れた・・・・・・。」 胸の内にある想いはこんなものじゃないのに、その言葉しか喉を通過してくれなかった。里美は苦笑いを浮かべた後、透き通る声で言った。 「また一緒に研究したいね。」 里美の笑顔はとても素敵だった。その分、惨めで情けない自分自身を痛感した。
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