side H

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笑みを浮かべたままの白石くんはゆっくり視線を俺に戻して更に続けた。 「それでね、その日からきみの名前、クラス、所属してる部活があるかとか選択科目とか友人関係とか調べ始めて、」 「え、」 「好きな人とか付き合ってる奴とか居たらどうしてやろうかと思ったけど学校には居ないみたいだったし、バイト先にも居なさそうだったからとりあえず安心して、」 「ん?んん??」 「それから話すことは無かったけれど表情がころころ変わるきみが可愛くて面白くてもっともっと好きになっていって…気づけば俺の部屋はきみだらけになっちゃって」 「え?え、あの…え???」 いやいやいやちょっと待ったちょっと待った。何て?俺だらけって何、聞き間違い? 何か話の流れが変わり始めたぞ。 興奮気味に話す彼の顔は先程より更に赤く染まり、にやける口角を抑えようとしているのかまた両手で頬を覆って恥ずかしそうに目を逸らした。 その姿はさながら恋バナに盛り上がる女子高生だが、何せ言っていることが実に可愛らしくない。好きな人のことは気になるもの、だとしてもここまで大っぴらに本人の目の前で語って欲しいものではないし、俺の感覚とは些かかけ離れている気がする。 俺が彼を知るよりも前に、彼は俺について調べ上げていたということか。 というかバイト先知ってるの?もしかしてもしかしなくても来てたの?!いつだよっ?!それに部屋が俺だらけってやっぱりその…いや、そこはマジで聞き間違えたのだと思いたい。一瞬脳裏によぎった光景は忘れよう。直ぐに。 しかし彼の俺に対する反応を見ていると、とても聞き間違えたようには思えない。くそ、折角俺が都合の良いように無理矢理解釈を捻じ曲げようとしてるってのにっ! 白石くんは興奮しているはずなのにいやに冷静な笑みを浮かべ、俺から目線を逸らすことなく一歩、また一歩と人のパーソナルスペースを踏み荒らしてくる。
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