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side S
俺の正体?やだなぁ、人間だよ。
好きなひとに振り向いて欲しいだけの、ただの無力な人間。
人生って良く出来てる。どうでもいい有象無象には望んでいなくても勝手に好かれるのに、愛しい愛しいあの子だけは中々振り向いてくれない。まぁそういうところも堪んないよね。
時間はもうちょっとかかりそうだけど、それも楽しいだろう。
浜坂くんを観察し始めてから気づいたことがある。彼は優しい。多分無自覚だ。だから何て言うか、つけこまれやすい。
彼のバイト先のパン屋にはちょっと面倒くさい先輩が居て、彼が断らないのを良いことにあれこれと雑用を押し付けていた。
腹立つからちょっと脅してやったらそいつバイト辞めちゃったんだけどこれは内緒ね。正義感の強い彼のことだから知ったらきっと怒られちゃう。
浜坂くんにだけは嫌われたくないんだ。
ちなみにスマホの待受は俺のきらきらに見惚れてぼうっとしてる彼の顔。どの表情もすんごい可愛いけどあの顔は殊更に可愛くてすごくすごく好き。
大きな瞳の中にきらきらが映り込んで幻想的だし、何よりあの瞬間は俺だけを見てくれてるみたいな錯覚に陥る。
好きだなぁ。好き。
いつだったか、話したこともないのに突然「一目惚れしました」って告白してきた子がいたけど今なら彼女の気持ちも少しは分かるかも知れないな。
視界に居るだけでこんなにも景色が色付いて美しい、なんて。
友人と話す彼は無邪気であどけなく、きらきらと眩しい笑顔を惜し気もなく振り撒いている。
あぁ。もったいない。もったいないなぁ…。
何億円よりずっとずっと価値のある宝物を、そんなに簡単にさらけ出してしまうなんて。
俺の前でだけ笑ってくれたら、どれだけ幸せだろうな。
そんなことを思いながら、
今日も、眩しいきみを見てる。
end.
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