【番外編】桜ひらひら

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ひらひらと、舞い落ちて。 空中でくるくると舞い踊っては地面に吸い付いて、たまに風で舞い上がったりなんかして視界を鮮やかに彩るそれは、この季節の代名詞とも言える。 陽の光を浴びて一層輝かしく地面へと落ちていく花びらは一見眩しく見えるけれど、彼らは光は反射しない。その代わりに一枚一枚が薄く光を透過して、その向こう側にある太陽の光をたまに遮っては光の筋を出現させる。 その中で忙しなく光と遊んで踊って、ひとつの季節の訪れを告げる光景。 あぁ、これに似た光景を俺は良く知っている。 ひらひらと舞い踊って、空中で輝いて、そして消えていく。 ただ違うのは桜の花びらは消えずに地面に残るということ。一年に限られた時期しか見られないこと。花びらには薄く色が付いていることと、それ自体は光を反射しないこと。 そして、桜の樹があればどこででも見られること。 しゃがんで、地面に落ちたひとつをそっと拾い上げる。…そっか、あいつ以外が触ることが出来るのも違うところか。 拾ったのは花びらではなく花の形のまま地面に落ちていたもの。これはきっとスズメの仕業だろうなぁ。 灰色のアスファルトを一面ピンク色に彩る桜。俺はこの春の代表的な景色が好きだし、とても綺麗だと思う。綺麗だと思う、けど…。 「俺の方が好きだと思ったでしょ?」 「うわっ!いきなり現れるなよ!」 吃驚したぁ…。背後から突然声が掛けられて振り返ると、楽しそうに少し細められたダークオレンジの瞳と目が合った。相変わらず色素の薄いこいつの髪が、風に揺られてさらさらと揺れる。 同時に、纏うきらきらも風に流されては消え、また現れては消えていった。
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