1月

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1月

 正月3日、平田旭は故郷に、青森県六ヶ所村に帰っていた。  朝、旭は家の前に出て雪かきを始めた。太平洋に面した海沿いの町ながら、気温が低いので、それなりに雪は降る。  さく、さくっ、プラスコップを雪に立てた時の音が低い。はて、と首をひねりながら作業をした。  雪の重さに、肩と足が悲鳴を上げた。 「ここの雪ときたら、撥ねたり投げたりできないなあ。やっぱり、ここでは雪かきだ」  今朝の六ヶ所村の気温は氷点下5度だ。氷点下10度以下になると、雪の性質が違ってしまうらしい。身近な物理現象を体験した気分になる。  北の空を見れば、下北連山があった。山頂付近は雪をかぶって白いけど、あとは葉を落とした木の茶色。東は太平洋、西は陸奥湾で、海にはさまれた村である。  家は棟続きの官舎だ。ついでに、となりの小沢さんの玄関前まで雪かきをした。 「あらあら、旭くん、ありがとね」  小沢さんの奥さんが礼を言ってきた。 「旭、後は頼む」  父の明彦が車で出勤して行く。核燃料サイクル施設は、基本24時間操業。今朝は早出の日だった。学校が冬休みの間、雪かきは旭の仕事だ。  小沢さんのご主人は勤務時間が違うのか、まるで顔を出さない。でも、一人娘の方が顔を出して来た。小沢麻里は旭の同級生だ。 「旭くーん、お礼がてら、こっちで朝ご飯、どう? ついでに、ちょっとお願いしたい事が」  いつもなら、アキと呼び捨てするのに。旭くーん、と猫なで声で来た。この誘いを断ると、後が怖い。母に言うと、小沢家で4人の朝ご飯となった。
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