1月

3/14
前へ
/103ページ
次へ
 昼前、旭は自室にもどった。  一人でノートパソコンを開き、久麗爺からもらった原爆のファイルを見た。  広島で爆発したMark1型原爆、リトルボーイは約60キロのウラン235を使った。濃縮率は40から50パーセントだ。けれど、実際に核爆発したのは、ウランの1.2パーセントと推測されている。残りの98.8パーセントは、核分裂で発生した中性子を核分裂中心へ反射するリフレクターとして機能していた。  長崎で爆発させたMark2型ファットマンは、約6キロのプルトニウムを使ったインプロージョン爆縮型原爆だ。  アメリカは経済性の高いMark2型原爆を以後の主流とした。けれど、プルトニウム爆縮型原爆は構造が複雑で、作るのに多くの手間を必要とする。ウランが貴重だった時代には、作る手間をかけた方が安上がりだった。  今の日本は、ウランもプルトニウムも余っている。ならば、構造は簡単な方が安いし、早く作れるはずだ。  リトルボーイの構造図を見ていて、イニシエーターの位置が気になった。核反応を始めるための中性子を最初に放出する大事な部分。それがウランの前方端にある。これでは、イニシエーターが放出した中性子の半分しか核反応に関われない。もったいない事だ。  イニシエーターの前方に中性子の反射体を置き、放出された中性子をウランの方へ返してやれば、見かけ上、ウランを倍に増やしたのと同じになると考えた。あるいは、ウラン235の濃縮度を上げたのと同じに。もしくは、半分の濃縮度でも核爆発が起きるかもしれない。  リフレクターと割り切るなら、未濃縮の天然ウランでも良い。けれど、六ヶ所村に天然ウランは無い。発電所で使用済みのウランは余っているけれど、核分裂で他の物質の割合が増えて、リフレクターの能力は下がっていそうだ。再処理後のウランは使い途も無く、備蓄が増えている。これを使うなら、早く安く・・・久麗爺の構想にも合う。  良いアイデアと思った。新しい構造図を描き始めた。 image=510856288.jpg
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加