1月

4/14
前へ
/103ページ
次へ
「よう、熱心だな」  父の明彦が帰ってきた。パソコンの画面を見て、また首を振った。 「まだ、久麗さんのアレにかかわってたのか?」 「うん、まあ・・・もしかした、物になるかもしれないよ。燃料のウランの濃縮度が、せめて20パーセントくらいあれば、だけどね」 「20!」  平田明彦は手で口をおさえた。もう少しで、言ってはならない事を口にしそうになった。  旭は父の反応を見逃さなかった。ウラン235の濃縮度20パーセントは、父には大事な数字らしい。  1月も半ばを過ぎると、夜明けが早くなったと実感できる。  朝食をとりながらテレビを見れば、接近する小惑星ノストラダムスの話題ばかりだ。 「いよいよ、今夜、ノストラダムスが月の裏側を通過します。予想時刻は、午後8時20分頃です。満月の夜の天体ショーに天文ファンは盛り上がっています。青森県の天気は、今夜は快晴に近い晴れ。絶好の観測日よりになりそうです」  画面が青白く光る小惑星の写真になった。 「昨日のノストラダムスです。周囲がぼやけているように見えます。これはノストラダムスから蒸発した水分など、実は彗星なんです。彗星の尾は後ろに隠れて、今はほとんど見えない状態です。とは言え、核の直径は200キロ、長さは300キロ以上。歪んだラグビーボールかピーナッツのような形をしています」  女性アナウンサーが語り、また男性のアナウンサーが語った。今時のニュースは漫才を見ている気になる。 「ノストラダムスは地球軌道を通過後、太陽に向かって落ち、消滅すると見られています。ただ一度の彗星と言う訳です」  ただ一度・・・旭の耳には、妙に残る言葉だった。 「行ってきます」 「いってらっしゃい」  妻の恵美子に送られ、平田明彦と旭の親子は玄関を出た。  明彦は出てすぐ、向かいの家の呼び鈴を押した。 「ぼんじゅー」 「オハヨゴザイマース」  不器用なフランス語となまった日本語が交差して、ジュール・ブリューネが出て来た。ブリューネはフランス人の技師、父と同じ核燃料サイクル施設で働いている。今朝は父の車に同乗して出勤だ。  旭は走る車を見送り、バス停へ急ぐ。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加