1月

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「待ってよー」  小沢麻里の声に、走りかけた足を止めた。  今日は学校の始業式の日、三学期の始まりがノストラダムスの最接近日とは。明日からは、少惑星の話題はテレビから消えるだろう。政治家の居眠りとか、芸能人の不倫とか、退屈なテレビにもどるはず。  青森県六ヶ所村にも高校がある。少子高齢化が言われる日本、高校がある村は珍しいはず。校舎は鉄筋コンクリートで、まだ新築の匂いがただよう。  六カ所高校前のバス停で降りて、旭と麻里は正門へ向かう。 「やっぱり、これが道だよなあ」 「何を言ってるの?」  旭は肩と腰をひねり、体に染み込んだバスの揺れを追い出そうとする。 「正月に北海道へ行ったんだよ。向こうの道ときたら、意味も無く真っ直ぐで平らで、走ってる感覚が無くなりそうになるんだ」  麻里は聞きながら、首を傾げた。  六ヶ所村は海岸線を除けば、ゆるやかな丘陵が続く。道はなだらかに曲がっている。 「けっ、またウラン臭いのと一緒にやんのか」  イヤな声が聞こえた。旭は聞こえない振りで、前を見たまま玄関へ行く。  靴箱の前で、横目が合った。  山鳩一朗と関尚人のコンビだ。親は石油備蓄関連の仕事らしい。そのせいか、日頃から原子力を目の敵にする言動がある。  二人とも身長は190センチ、クラスでは一と二の背丈の大男。野球部のエースと四番だ。小柄な旭の背丈は、二人の肩までしかない。  六ヶ所村は日本のエネルギー政策の縮図が詰まってる所だ。核燃料サイクル施設があるかと思えば、石油備蓄基地がある。  ほんの10年前までの日本は、自然破壊のダムを撤去して、二酸化炭素を出さない原子力を推進していた。それが、3.11の地震と津波で原発は総停止、自然エネルギーの一つとして水力発電ダムが復権した。  石油はLPGに押されて、一時は旗色が悪かった。それが、今では化学素材としての需要が盛り返している。マイクロプラスチックの海洋汚染が話題になる昨今だが。  始業式の後は、クラスに戻って、新学期の席替えをした。 「おお、ウラン臭いのから離れられて、空気がさわやかだぜ」  山鳩と関は後側窓際の席になり、大きな声で嫌みを言う。前側の席に座る旭は、じっと黙して答えず。
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