1月

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 ブリューネがタブレットを操作して、天文学論文を開いた。 「ヒラタ、こんな事を書いてる人がいる」  タブレットが父の明彦に渡され、旭に回って来た。  それは彗星ノストラダムスが分裂する危険を説いていた。  太陽、地球、月が一直線に並ぶ満月の夜、ノストラダムスは月の裏側を通る。強力な潮汐力が彗星にかかり、分解を促す。進行方向に分解した場合、シューメーカー・レヴィ第9彗星のように一列に並んだ彗星になるだろう。  しかし、進行方向に対し直角に分解すると事態は別だ。半分は地球から急速に遠離る。もう半分は月をかすめて、地球に落ちて来る場合が想定される。速度は秒速15キロ以上、分解して2日後、それは地球に衝突する。破滅の日が訪れる・・・と。 「確かに、でっかい塊のまま来たら、人類は終わりだ。直径は200キロあるし、恐竜の絶滅以上だな」  旭は首を傾げた。 「分解の仕方は内部構造によるからなあ。シューメーカー・レヴィ彗星は木星の引力で砕けた。木星の重力圏は広いので、通り過ぎるのに時間がかかる。なので、通過する間に、朝夕力で一直線に列んだ。地球の重力圏は狭いから、列ぶ前に外に出てしまうでしょ」  ふむふむ、ブリューネは赤ら顔で肯いた。かなりワインが回ってる感じ。 「もう一つの砕け方は、どうなる?」  こんな大きな問題を、大人が子供に聞くとは。立場が逆のような気がした。  問われて、わかる範囲で答えるなら、大人も子供も無い。権威の無い子供の言葉のほうが、むしろ真実に近い場合もあるだろう。 「きれいに真っ二つ・・・と言うのは小さいと思う。するなら、もっと粉々になると思うよ。小さな無数の隕石に混じって、時々は大きめのが降る・・・そんな感じかなあ」 「どうなる?」 「ほくらは、別々の隕石に当たって死ぬ。つまり、数秒か数分か、時間差がある・・・かもしれない」  むむ、ブリューネは口をつぐんだ。 「イッキビン、ドゥム・・・」  フランス人のくせにドイツ語でうなった。彼の生地はフランス北東部、パリよりドイツとの国境の方が近いらしい。
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