1月

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「わあ、もうすぐ重なる」  母の声に、旭は視線を窓へもどした。  シルビーがテレビを入れた。  画面一杯に月が映った。月は高度を上げ、次第に画面から外れて行く。追いかけるように、画面下からノストラダムスが入って来た。  旭は双眼鏡で月を見ていた。 「間も無く、ノストラダムスは月の裏側へ行きます。直径200キロ長さ330キロとは言え、直径3500キロの月と比べると小さい。隠れている時間は約4分です」  のんきなアナウンサーが天体ショーを語る。  ノストラダムスが月の陰に隠れた。テレビは屋外で天体望遠鏡を並べる人々に変わった。  うおー、わー、撮った画像を見せ合う人たち。ひげの男がカメラと大型望遠レンズの性能自慢をする。  ブリューネが月を見ながら、またワイングラスをかたむけた。 「ヒラタ、アキラ、賭けるか?」 「何を?」 「一つのまま現れるか、二つになってるか、いっぱいになってるか」  あはは、笑いだけを返した。 「さて、もうそろそろ現れる頃ですが」  テレビの声。外からの中継では、大勢が空を見上げてカウントダウンを合唱している。  また、旭は双眼鏡を月に向けた。  月の陰から青い星が飛び出すように現れた、ちょっと早いタイミング。次いで、何か小さな星が現れた。小さな星が次々と出て来た。 「アキラ、いっぱいになった!」 「まず二つになって、地球側のやつが月の朝夕力で、さらに分解した・・・と言うところかなあ」  旭は首をひねりつつ、先に見えたやつと、後から現れたのを考察した。ノストラダムスは礫集合の小惑星、固く結合してなかったようだ。軌道が、予測より月に近付いていたのかもしれない。  あははっ、母がテレビを見て笑った。小さな星は太陽光を不規則に反射し、宝石がきらめくように見える。
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