20XX年12月

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 列車は空知平野を真っ直ぐ走る。新幹線のように真っ直ぐに延びた鉄道、ちょっと不思議な感覚があった。  トンネルに入った。青函トンネルのように真っ直ぐなトンネルだ。 「次の停車駅は終点、旭川です」  平田旭はガイドブックを開き、旭川を確認した。  向かいの席には父の明彦と母の恵美子がいる。両親には故郷の町、顔が子供のようにほころんできた。平田旭の名前は、旭川から取ったと聞いていた。  トンネルを抜けると、左前方に大きな山があった。下から上まで真っ白、青い空とのコントラストがまぶしい。 「おお、大雪山だ」  父が嬉しそうに声を上げた。 「どれ? どれが大雪山?」 「全部ひっくるめて大雪山だ。とんがりを右から旭岳、中岳、黒岳と呼ぶ。アイヌ語ではカムイ・ミンタラ、カムイ・アンヌプリと呼ぶ場合もある。神々の庭と言う意味だ」  父は笑顔で解説してくれた。  富士に登って山の高さを知り、大雪に登って山の広さを知る・・・昔の人は言ったらしい。  右から左まで山脈のように続いた山だ。褶曲山脈ではなく、火山の連峰だ。旭川側から見えるのは内側の直径が2キロある噴火口の外輪山。それぞれも火山である。  列車を降りると、息が苦しく感じた。空気を吸うのが苦しい。 「ゆっくり息をしろ。温度が違うぞ」 「蔵王の山頂みたいな感じだ、平地の街中なのに」 「北海道の真ん中だし、ここでも標高100メートル以上あるからな」  旭は背を丸めた。手で鼻をおおい、温めた空気を肺に入れる。冬の蔵王山に登った時にも、同じ事をした。
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