1月

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 ははは、ブリューネは足をたたいて笑った。 「二段重ねのタンパーとリフレクターは、とても面白い。けど、中古品と再生品で原子爆弾が、フェアリュックト!」  またドイツ語が出た。しかし、すぐ真顔になった。 「隕石は2日で来るよ、間に合わない」 「こっちは作るのに3ヶ月もかかるんだけど、ねえ」  父の明彦が腕組みでうなった。 「え、できるの?」  旭は驚いて問い返した。濃縮率20パーセントのウラン235が手に入るとは思っていなかった。  平田明彦はため息をついた。思わず言ってしまったが、今さら隠す必要は無いだろう。 「ここの設備を使えば、5パーセントの備蓄ウランから、20パーセントまで再濃縮はできる。最初から、そのように設計されていた。原発の燃料ウランは、より高濃縮のウランを求められていたしね。燃料の交換時期を延ばすためだ。40パーセント以上のウランは兵器級に分類されるので、条約上、濃縮は禁じられている」 「できたんだ・・・」  父の説明に、旭は嘆息した。  テレビでは、アナウンサーがヒステリックにわめいている。知識も対策も無く、ただ驚きと恐怖を口にしていた。  気がつくと、シルビーの姿が無い。帰った、と母の恵美子が言った。 「アキラ、このファイルを下さい。自分でも研究してみたい、あと2日だけど」  ブリューネが言った。旭はUSBメモリーにコピーして渡した。 「シルビーが心配、ボンニューイ」  メモリーをポケットに、ブリューネが帰った。部屋が静かになった。  テーブルに残った料理を口にした。ガレットはそば粉を使うフランス料理、日本人の舌になじみやすい味だ。 「これからどうなるのかしら」 「まだ、何もわからないよ」  母の問いに、旭は平静を装って答えた。  テレビには月が大写しになっている。ノストラダムスの片割れが飛び去り、砕けた破片が雲のように月にまとわりついていた。見かけ上の相対位置が変わらないのは、こちらに向かって一直線に飛んでいるか、逆に遠離っているか。良い予想はできない。
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