1月

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 翌日、まだ暗いうちに起きて、すぐテレビを入れた。 「ノストラダムス彗星が砕けた破片は、月軌道を越えました。破片の群れは直径1000キロほどに広がり、秒速10キロで地球へ向かっています。あと3日で地球に来ます。これまでの観測では、わずかに地球を外れるようです」  わあ、母は手をたたいて喜んだ。  父は新聞を広げ、ノストラダム分解の記事を読む。  旭は新聞もテレビも遠くにして、黙々と朝飯を取った。 「秒速10キロ・・・まずいなあ」  耳に入ったテレビに、旭は思わずグチが出していた。  ノストラダムスは秒速15キロ以上で飛んでいた。砕ける時か、砕けてからか、大きく減速したようだ。  速度が第2宇宙速度を上回っていれば、破片は地球を通過して、宇宙の彼方へ飛び去る。しかし、秒速10キロでは第2宇宙速度に達しない。破片は地球周辺に留まる事になる。そして、月と地球の重力摂動を受け、いつか地球に落ちて来る。 「NASAでは、国際宇宙ステーションのクルーに退避命令を出しました。間も無く、ソユーズが帰還の途につきます」  ニュースは世界の反応を伝え始めた。 「政府は隕石の落下災害に備え、自衛隊に出動準備命令を出しました。予備自衛官の招集も検討されています」  7時過ぎ、明彦は向かいの家のドアホンを押したが、反応が無い。郵便受けに書き置きがあった。  あの後、夜の内に、ブリューネは妻と成田へ走った。一番の飛行機でフランスへ帰るつもり、飛んでいれば。彼は職場を放棄をした。  平田明彦は肩をすぼめ、見守る息子に首を振った。  旭は父に手を振り、いつものように学校へ向かう。地球の危機が来ているが、何をすべきか分からない。とりあえず、昨日までと同じ事をするのだ。人間の脳は、それほど臨機応変には動かない。
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