1月

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 いつものように、平田明彦は六ヶ所村核燃料サイクル施設に出勤した。  詰め所でブリューネの帰国を知らせた。誰も驚かず、黙して納得した風だ。  8時前、芹沢所長の特別放送が流れた。 「本日の操業は中止、全施設の閉鎖準備にかかれ。何が起ころうと、放射性物質が外部に漏れ出ないよう、万全を期すべし」  ごくり、平田はつばを呑んだ。  いつもなら、施設閉鎖も訓練の内だ。しかし、今回は違う。  ポーン、黒板上のスピーカーが鳴った。授業開始のチャイムではない。 「校長の上原です。昨日、小惑星ノストラダムスが月の裏側で事故を起こしたようです。まだ、政府や自治体から具体的な指示はありません。あらぬ噂や、変な風評に惑わされる事無く、落ち着いて行動して下さい。いつもと同じように、今日一日を、精一杯に生きましょう」  校内放送が終わり、教室に喧騒がもどった。  旭は机の上にノートと教科書を置き、教師の到着を待つ。いつもなら、とっくに教室に入って来ている時刻だ。 「先生、遅いね」  麻里が背伸びして、廊下を見た。 「隕石が怖いと言っても、地球の外へは逃げられないし。地球の上なら、どこにいようと、確率は一緒だよ」  旭は頬杖でため息をついた。  シャープペンをカチカチ鳴らし、麻里は落ち着かない様子。  夜、カーテンの隙間から空を眺めた。今夜は雲が多め、月は雲にかくれて見えない。 「あ、流れ星よ」  母が指差した。雲の切れ間に小さな星が流れた。と思えば、また星が流れた。 「ノストラダムスの先駆けだな。秒速15キロのまま、減速せずに飛んで来たやつだ」  旭は夜空を見ながら、雲が占める割合を計算した。そこから、実際の流れ星を数えてみる。  破片群は地球と月の重力で細長く伸びていた。雲の切れ間に、以前は無かった天体が姿を現した。  あと2日、直径10キロを超える大物が地球の上に来る。
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