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2月
どどーん、雷のような轟音が官舎を揺らした。
平田旭は布団から身を起こした。時計は午前4時過ぎ、冬と言うのに窓の外は明るい。
カーテンを開けると、東の空に光の柱が立って海と街を照らしていた。
光の柱に見えるのは輪だ。ノストラダムスの破片が地球周回軌道に入り、赤道付近に輪を作った。輪が水平線下にある太陽光を反射して、夜を短くしていた。
時折、輪から隕石が落ちて来る。燃え尽きずに高度3万メートルくらいまで来ると濃い大気層にぶつかり、隕石は大きな衝撃波を発生させる。
寝てられず、トイレに立った。のどの渇きに、居間へ行くと母がいた。寝間着のまま、テーブルで惚けている。
「さっきの音は?」
「たぶん隕石だよ。近くには落ちなかったみたいだ」
温かい茶を煎れてくれた。
新しい日常に、まだまだ慣れない。
6時、朝の天気予報を見た。
気象衛星の写真を前に、予報士が解説をする。いつもの放送だ。
「高度3万6千キロの静止衛星から写した地球です。赤道の下側に、うっすらと黒い帯があります。ニューギニアやインドネシアにかかり、幅は数百キロもあります。ノストラダムスの破片が作った輪の影です。影のさらに下の島や雲がボケて見えます。これが輪の本体です。今後、地球の気象や大気の運動に、影響が出て来ると思われます」
去年までは無かった要素を語り、予報士は首を振る。長期予報が難しいらしい。
ふう、旭は息をついた。
朝食の後、トイレで時間をかける。登校前の儀式だ。
新聞を読みながら、ゆっくり便意を待つ。NHKが放送衛星を断念、が一面の記事だった。隕石が衛星を壊したらしい。新規の衛星を打ち上げても、現状では安定した運用が不可能との判断だ。
気象衛星も危ない。いつまで保つやら。
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