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「ひどい点だ。やる気あんのかあ?」
昼休み、旭は職員室に呼び出しをうけていた。担任の教師、伊東から苦言をもらう。毎月の恒例行事になっていた。
「数学と物理は満点に近いのに、国語や社会は赤点ギリギリ、いつもこれだ。数学に向ける気力の少しでも国語にな、そうしないと・・・落第だぞ。それで良いのか?」
「はい・・・」
旭はうな垂れて聞くばかり。自分の成績を責められるのは聞き流すだけだが、伊東の苦言は時に、父が勤める原子力施設へ向く。これは腹が痛くなる。
「昔なら、無気力とか根性無しとか言ったものだが。最近は、適応障害とか発達障害とか言わなきゃならんらしい。一度、精神科を受診してみるか?」
どどどーん、轟音と共にガラス窓が震えた。隕石が発した衝撃波だ。
「今のは、ちょっと近かったみたいですね」
旭は天井を見上げた。音は大きかったが、校舎は頑健に耐えている。
視線を下げると、伊東の姿が無い。
がた、イスを押して、伊東が机の下から顔を出した。素早い対応を誉めるべきか、旭は口をつぐんで言葉を控えた。
教室にもどり、旭は自分の席に座った。
食べかけだった弁当箱を開くが、食欲は無い。午後の授業を考え、目を閉じて口に押し込んだ。
「ね、今日は何だったの?」
麻里が聞いてきた。他の女子たちも目を横目で見ている。
「精神科へ行け、てさ。おれは、なんとか障害の疑いがあるらしい」
「ひどーい、自分の生徒を障害者あつかいするなんてえ」
「まあ、少しなら自覚してたけど、面と向かって言われると、ねえ」
旭は弁当の残りを口に入れ、箱を閉じた。
「おおっ、何だあ?」
窓際の山鳩と関が声を上げた。
旭は顔を上げ、窓を見た。隕石が近くに来たのなら、窓から離れるべきだ。
が、山鳩らの目は空を見ていない。地面の方に何かあるらしい。
旭は立ち上がった。正門から黒いミニバンが入って来た。よく見れば、門の外にも見慣れない車が停まっている。カーキ色の車体、ミリタリーオタクだろうか。
スライドドアが開いて、一人が降りた。遠くからでも、それが誰か分かった。父の平田明彦だ。
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