2月

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 旭は玄関へ走った。 「父さん」 「旭、見てたか。荷物を片付けろ、今日は早退だ」 「何かあったの?」  旭の問いに、父は首を振って応えた。 「先生には、わたしが言ってくる」  父は旭に背を向け、職員室の方へ行った。  頭をかきかき、旭は教室にもどった。カバンを出し、弁当箱を入れる。 「何よ、どうしたの?」  麻里が聞いてきた。 「帰る、早退だ」 「それで、お父さんが来たの? でも、なぜ?」 「わからないよ」 「まさか、お母さんが事故とか?」 「何も聞いてない、わからないよ」  カバンとコートを手に、旭は廊下に出た。父が職員室の方から来た。 「先生には言ってきた。さあ、行くぞ」 「どこへ?」  旭の問いに、父は首を振った。緊張した顔、ほとんど初めて見る父の表情だ。 「ウラン臭いのが帰るのか。今日の午後は空気が良くなるなあ」  山鳩と関が大声で言った。廊下まで聞こえてきた。 「あんなのがクラスにいるとは」 「うん、まあね」  父は山鳩と関の言動を初めて知ったようだ、旭も告げてなかったが。けれど、父の足は速いまま、旭は付いて行くのがつらい。  玄関前に出ると、ミニバンのスライドドアが開いた。2列目奥の席には陸上自衛隊の人が乗っていて、敬礼をしてきた。 「息子の旭です」  父は息子を紹介して、乗れと促した。 「平田旭です、はじめまして」  旭は頭を下げ、3列目の左席に座る。右席には白髪交じりの人がいた。父が2列目に乗り、ドアは閉じられた。  運転席の人が右手を掲げ、敬礼をしてきた。警察とは帽子が違う、あちらも陸上自衛隊だ。
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