2月

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 車は走り出す。正門を出ると、先導しているのは自衛隊のジープだった。振り返ると、後ろにも自衛隊の車がいる。 「JNC六カ所の所長、芹沢です。よろしく」 「こちらこそ、よろしく」  隣席の人が自己紹介してきた。旭は頭を下げた。名前だけは知っていた。JNCとは日本核燃料サイクルの略。父、平田明彦の上司だ。 「おまえの荷物だ。泊まりになるかもしれん」  前の席から、父がバッグを渡してきた。 「あのう、いったい何が?」  「向こうが君を指名して来た」 「向こう?」 「君はネットで有名人だから・・・だろうな」 「有名人、ぼくが?」  芹沢所長がタブレットを出した。少し検索して、旭に渡した。  その画面、WEBページの先頭、久麗均一と平田旭の顔写真がカラーで載っている。画面をスライドさせると、発電用ウランで作る原子爆弾の構造の論文だ。 「な、な・・・なぜ?」 「書いた覚えは、あるだろう。今朝、わたしも知った。たった3ヶ月で原爆を作る、とんでもない事を書いたものだ」  家のノートパソコンに同様の文書はある。しかし、あれはネットには接続していない。ウイルスで漏れるはずは無い。  他人に見せた事も、コピーを渡した事も・・・一度だけ、ジュール・ブリューネだけだ。 「あいつか!」 「身に覚えがあるようだな。ちゃんと責任を取ってもらうよ」  旭は画面を進めて読んで、首をひねる。 「ずいぶん編集されてる」  久麗均一が書いた部分はそのままだった。が、旭の書いたところは、ほとんど無い。書いた覚えの無いところもある。ジュール・ブリューネが書き足したのだろうか。図面は久麗均一のだけだ。  少し腹が立った。こんな文章で、写真だけ久麗均一と平田旭が同格になっているのは納得いかない。 「その辺は向こうの都合だろう。とにかく、君は世界的な原子爆弾の権威になっている」  芹沢はタブレットを取り返し、カバンに入れた。 「向こうの指名は君だけだが、未成年であるし、お父さんにも付き合ってもらう」  旭は前席の父を見た。こちらを振り返らず、前だけを見ている。
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