20XX年12月

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 改札を出ると、叔母が迎えに来てくれていた。 「きゃあ、ねーさん、久しぶり-」 「来たねー、やっと」  母の恵美子は実の姉、久麗美智に抱きついた。子供のようにはしゃぐ。2才違いと聞くけど、40過ぎた今は双子のように見える。  駅前の駐車場でミニバン乗る。車体の側面に『久麗木工家具』の文字があった、社用車だ。  電光掲示の温度計を見た。マイナス10.5度の表示だった。 「街中で、氷点下の10度以下なんだ」 「はい、今日はね、ちょっと冷えてるね」  叔母は笑顔で答えた。 「10度で、ちょっとなんだ」 「氷点下41度、日本記録がある所だぞ」  父が歯を剥き、自慢気に言ってきた。  明治35年(西暦1902年)1月25日、青森県の八甲田山中で、第5連隊が遭難、大量の凍死者を出す事件が起きた。その日、この旭川では、日本の歴史に残る最低気温を記録していた。  別世界に来たなあ、と旭は思った。 「旭くん、いくつ?」  叔母が年を聞いてきた。 「17、高校2年です」 「わお、うちの美優と同い年か」  あはは、はははっ、母と叔母が何やら女どうしで盛り上がる。  真っ白な雪の路面を走る。  車が止まったのは、久麗木工家具の駐車場だった。工場は正月休みに入っているが、ショールームは開いていた。 「やあ、いらっしゃい」  社長の久麗念努が出迎えてくれた。  旭も車を降りる。きゅっ、足元で変な音がした。 「親爺が腰を痛めたらしい。腰に良いイスがあるかなあ」 「おお、ブルータス、おまえもか」  父は叔父とショールームへと行く。母は叔母と家の方へ。どっちへ行こうか、首を回していると、ショールームのとなりに赤提灯があった。科学屋と墨書きされている。 「旭は科学屋へ行くと良い。あまえが好きそうな物が山ほどあるぞ」  父が言うので、旭は肯いた。その方へ踏み出すと、きゅっ、また足元で音がした。雪の音のようだが、初めて聞く音だ。
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