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「こんにちは」
旭は声を上げ、二重の戸を開いた。
中に入って、わお、また声を上げていた。用途が思い付かない機械が並んでいた。人が二人、年寄りと旭よりは年下の男の子がいた。
「やあ、いらっしゃい。わしは久麗均一、久麗の爺と言う事で久麗爺なんて呼ばれとる」
「あの・・・平田旭です」
「おお、平田の。そっか、着いたのか」
久麗爺はパソコンの前に座ったまま、指で口髭をなでつつ、旭を見る。旭が機械に向ける目つきが気に入ったようだ。
「あっちは太郎。久麗の三代目候補だ」
やあ、と太郎が手を上げた。その手でノートパソコンをいじっている。パソコンのコードが等身大の人形につながっていた。
きゅん、小さな音で人形が動いた。手と足が連動して、踊るような動き。ミクミクダンスと言うCGモデルを踊らせるプログラムを知っていたが、実物の踊るロボットは初めて見た。
太郎は首をひねり、パソコンのキーを叩いた。人形の手足が止まった。動きが気に入らなかった様子だ。
旭は久麗爺の方へ歩み寄る。老人がパソコンでお絵かきするニュースも見ていたけれど、その画面にあるのは普通の絵ではなかった。
「リトルボーイ・・・ですか?」
「おお、知っているのか。さすが、父親が原子力屋なだけあるな」
「父が勤めているのは、青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設です」
「やっぱり、原子力屋じゃないか」
「はい・・・そう言う事にしときます」
旭は老人と議論するのをあきらめた。気を取り直し、パソコンの画面を見た。
リトルボーイはアメリカが作ったMark1型原子爆弾の別称だ。昭和20年(西暦1945年)8月6日、広島に落とされた。
「発電用ウランで原爆を作れんかなあ、と思ってな」
「原爆を! また、物騒な」
「リトルボーイは3インチ砲を基礎にして作られたガンアッセンブリ式原爆だ。発電用のウランは濃縮度が低いので、倍の口径、6インチ砲を基礎にしようと思った」
久麗爺は真顔で言う、冗談は抜きのようだ。
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