20XX年12月

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 父の実家、平田農場に着いたのは夕方近かった。  家も大きいが、二棟の納屋の大きさに驚いた。中には大型のトラクターや耕耘機がある。タイヤの直径は旭の背丈ほどだ。学校の実習で訪れた青森の農家の機械は小さかった。青森の農家が軽自動車で農業をするのに、こっちの農家は大型車を使う。 「すごいなあ。農業なんて感じがしない」 「じゃあ、どう感じる?」 「あえて言うなら、食料工業・・・かな」  旭が言うと、わはは、父は笑った。  冬至が過ぎたばかり、午後4時には夜同然の暗さになった。  晩飯の席はにぎやかになった。父の兄夫婦に二人の子供、祖父に祖母、3人の農業実習生も住んでいる。そこへ弟夫婦と子の旭が加わって、10人を越える人数になった。  魚やカニ足が盛られた石狩鍋、焼き肉のジンギスカン鍋がテーブルに列び、酒瓶が追加されたらパーティ状態だ。  父の兄、平田信彦は酒をあおって赤ら顔だ。 「なあ、明彦よ。もう原子力なんか辞めて、帰って来いよ。明るい農業の未来を切り開こうぜ」 「確かに、原子力発電には明るい未来は無いみたいだ。でもね、核燃料サイクルはイヤでも続けなきゃならない事業だよ。原発を廃止するのは簡単だろうけど、残った使用済み原子燃料を外国が引き取ってくれるはずも無い。日本の中で始末をつける必要があるんだ」 「あちゃー、原発全廃と叫ぶ連中は多いが、そんな簡単な事じゃないんだ」 「農地をつぶすには、街で出たゴミを山盛りするだけで済むのにね」  父の兄がしかけたリクルートは、どうも失敗したらしい。  旭は安心して、青森では珍しい羊肉に箸を付けた。
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