20XX年12月

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 テレビが星の写真を写した。黒い星空の中に、青白く光る天体があった。 「これはハワイのスバル望遠鏡が撮った小惑星ノストラダムスです。火星軌道を越え、いよいよ地球に近付いてきました。間も無く大きな尾を引いて、小型の望遠鏡でも見られるようになります」 「年明けの最接近では、1910年のハレー彗星以上にビッグな天体ショーになると期待されています」  アナウンサーは笑顔で言う。衝突を心配しない脳天気な顔だ。 「1910年のハレー彗星では、彗星の尾に毒性ガスがあって、地球の生き物は死に絶えると言う浮説が流れた事で有名です。彗星の尾が地球の大気を吹き飛ばして人間は窒息死する、と言う学説も一部では信じられたとか。今度は、どんな風説が広まることやら」  旭は笑ってしまった。衝突しないまでも、あらぬ心配をする人は多いようだ。  6時過ぎ、旭は目覚めた。いつもの時刻だ。  しかし、外は暗い。青い闇につつまれている。トイレを済ますと、父の兄と出くわした。 「おう、起きたか。男なら、雪はね手伝え」 「はね?」  旭は強引に連れ出された。ひざ丈の長靴を借り、ごつい防寒手袋をする。実習生たちも出て来た。朝飯前の運動が始まった。  きゅっ、昨日も感じた音が足元でした。  柄の長いスノーショベルで昨日からの新雪を割る。四角に切れ目を入れて、すくうと粉雪は軽い。  ぽん投げれば、2メートルは飛んだ。 「確かに、こいつは投げて、はねる、だな」  旭は大きな動作で雪を撥ねのけた。5人がかりとあって、30分とかからず家から道路まで道ができた。  他の家は、と道路の先を見た。が、家が無い。となりの家は300メートル以上も離れていた。  額の汗をぬぐうと、山の向こうから朝日が差してきた。つい、空のどこかにあるノストラダムスを探していた。
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