20XX年12月

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 朝食後、部屋でノートパソコンを開いた。  原爆のファイルを見直して、ちょっと首を傾げた。 「何、してんだ?」  父が話しかけてきた。 「昨日、久麗のお爺さんからもらったんだ。けど・・・」 「けど?」 「お爺さんには悪いけど、これは原子爆弾にならないや。どう計算しても、発電用ウランを使うんじゃ、放射性ガス爆弾が精一杯だなあ」  旭はため息をつく。  日本の発電用原子炉で使われているのは、濃縮率5パーセント未満のウラン235だ。  ウラン235は天然ウラン238の中に、0.07パーセントだけ存在する。色々な過程を経て、100倍近くも濃縮して、原子力発電は成っている。  発電用原子炉が爆発事故を起こした事例は、公になったので2件ある。ロシアのチェルノブイリでは、熱暴走した原子燃料に冷却水が接触、水蒸気爆発が起きた。日本の福島第一原発では、加熱した原子燃料に触れていた冷却水が熱分解して水素ガスが発生、水素爆発が起きた。発電用原子燃料では、この程度で済むはずなのだ。けっして核爆発にはならない。  久麗爺は発電用ウランで原子爆弾を作ろうと考えた。  確かに、臨界を越えれば核反応は起きる。ウランがプラズマ化してウランを包む鉄を溶かす。この時、ウランと鉄が混ざり、ウランの濃縮率が下がってしまう。そこで核反応は止まる。ウランと鉄の混合ガスは爆弾のケースを破り、外に出て行く。 「結局、メルトダウンで終わるね」  旭の出した結論に、父は笑みで応えた。  でも、と旭は考えた。  本当に、ノストラダムスは通り過ぎるだけなのだろうか。こんな簡易型原子爆弾が役立つ状況は、決して訪れないのだろうか。
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