夏がくる

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「ただいま」  家の玄関を開けたひよりは、見慣れないスニーカーを見てうつむいていた顔を上げた。  リビングから明るい笑い声が聞こえる。  しかも、片方は若い男性のものだ。  ひよりの家族は父と母、そしてひよりと幼い弟の四人家族。  若い男性に心当たりは無くて、少し表情を引き締める。 「ひより、おかえりなさい」  靴をぬいでいると、母がリビングから顔を出した。 「ただいま。お客さま?」 「おかえり、ひより」  ひよりの質問に答えるように、母の後ろから゛お客さま″がひょっこりと現れる。  長身の青年の姿に、ひよりの目が輝いた。 「清ちゃん! いつ帰ってきたの?」  それは、お隣に住む三つ年上の幼なじみ、清明(きよあき)だった。  東京の大学に行った彼が、どうしてここにいるのか。 「今日だよ。夏休みだからね、帰省したんだよ」 「大学はもう休みなの? いいなあ」  頭が良く、さわやかで格好良い幼なじみは、昔からひよりの自慢だった。  失恋の痛みを一時的に忘れて、ひよりはいつもの笑顔を浮かべる。  明るい、ひまわりのようなその笑顔に、清明も嬉しそうに笑った。
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