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夕暮れになるまで泣いたら、気分も少しは持ち直した。
「人との縁は難しいものだから」
と、清明は慰めらしいことは言わなかった。
けれど、
「ひよりはとても可愛い、元気で優しい女の子だよ」
と、ひよりの頭をなでた。
「もう子供じゃないよ」
さんざん泣いた後に言うセリフじゃないな、と思いながらもひよりは唇を尖らせる。
清明は笑って、そして言った。
「今度、一緒にプールに行こう」
「子供の引率?」
ちょっと拗ねた気分でひよりが皮肉を返すと、清明は意味深に目を細めた。
「デートのつもりだけど」
「え」
「なんてね」
清明はまた笑いながら立ち上がると、ゆっくり歩き出した。
その背中に、ひよりは舌を突き出す。
「……清ちゃんのバカ!」
あはは、と清明が笑う。
ひよりは勢いよく立ち上がり、その背を追いかけようとして、ふと足を止めた。
風が吹く。
前髪を揺らして去っていく風には、もう夏の匂いがした。
夏が来た。
眩しくて先が見えない、新しい夏が。
了
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