記憶

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今年も始まってしまった。サークル合宿恒例の怪談話が。 私は幽霊や怪談などの怖い話が特に苦手だ。何が楽しくてそんな話をするのか全くわからない。 これなら、誰かの真実かどうかも分からない恋ばなで盛り上がっていた方が昼間の練習の疲れも癒えるというのに。 私達水泳サークルは昼間の練習の後、夜はお酒を飲みながら怪談話をするのが恒例行事となっていた。基本的には話たい人が話して皆それをツマミにお酒を飲むといった感じだが、暗黙のルールとしてこういった話が苦手な人も一緒にいないといけないというのだ。 苦手な人は先に酔い潰れてしまうのが一般化していたのだが、私はお酒が飲めない体質なのでそれも出来ない。 だから、私にとってこの時間は何事よりも辛い物となっていた。 いつもなら、話たい人がよくある『トイレのハナコさん』や『音楽室の肖像画の目が動く』などの学校の怪談程度の話をする。 それでも私には十分過ぎる程で毎回先輩や友達に泣きついているのだが。 だが今回は違った。今年から入った一年生の提案で『百物語』をやろうと言うことになりました。ルールはロウソクを一人一本持ち怪談話をしたら消し最後の人が消したら終わりという説明を軽くされ『百物語』が始まった。 話をする人は既に寝てしまった人や私みたいな人を除いた11名だけだった。 始めは先輩達がいつもの学校の怪談の話をしたり、この為に準備でもしてきたのであろう、そんな話を知っているはずが無いような人が得意気に話したりと、皆それなりと楽しんでいた様だ。 私にはそんな余裕も無く、友達の腕にしがみついついたが。 だが『百物語』も終盤に差し掛かり、提案者の話を聞いた時私は開けられてはいけない扉を開かれる様な感覚を最後に意識を手放した。 目が覚める時計に目をやると昼の12時を回っていた。私は急ぎ食堂に向かい、朝練を寝坊してしまった事を謝りに行った。 食堂に着き私を皆が見るやいなや、一様に「大丈夫だった?」と言ってきた。後に話を聞くに昨晩の話の途中から私は顔が恐怖でひきつり何も喋らなくなり突然倒れたという。 これ以来怪談話の参加が緩和され聞かなくても良くなったが、私はあの日の夜の感覚を忘れずにいる。あの恐怖に歪む二人の顔を見下ろす時の何とも言えない快感を。
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