GOAL

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頭がぼんやりとする。 身体が重い。 その理由を確かめようと、オレはゆっくり目を開けた。 見覚えのないまっ白な部屋。 「目、覚めた?」 そこには、オレの顔を心配そうにのぞき込む今塚沙央莉(いまづかさおり)がいた。 「あ、ここ、は?」 声がうまく出せない。 「覚えてないの?」 沙央莉の声が低くなり、表情に苛立ちが混じる。 よく見れば、沙央莉はノーメイクだった。 普段はきれいにセットされているセミロングの髪も乱れている。 オレが寝ているのはどうやら病室のようだ。 沙央莉は慌てて駆けつけたのだろう。 状況を少しずつ理解する。 オレは体を起こそうとしたが、痛みが走りうめき声をあげることしかできなかった。 「肋骨にヒビ。右足骨折。全身打撲。頭部裂傷」 芋虫のようにうごめくオレに、謎の呪文が降りそそぐ。 「あんたの症状。どうしたらそんなことになるわけ?」 オレは必死で記憶を辿る。 仕事が休みだったオレは、15時頃から串焼き屋「ベアさん」で仲間と飲み始めた。 18時頃には馴染みの居酒屋「タケウチ」に。 22時頃に、悪友に引きずられてキャバクラに行った。 そこまでは覚えている、だが、その後の記憶がない。 「独身最後の夜は楽しかった?あ、結婚は中止だ。独身継続おめでとう」 オレは焦った。結婚を中止するわけにはいかない。 この日を待ちわびていたのだから。 「ち、中止、じゃな、い。延期、だ」 沙央莉の目は冷たい。 「あんたなら、って思ったけど、やっぱり無理」 独身最後の夜を楽しんでいたわけではない。 早く結婚しなければ奪われるのではないかとずっと不安だった。 だから、不安から解放される喜びに酔った。 オレが勝ったという勝利の美酒だった。 説明したかったが、言葉が出てこない。 「あんたに美紀は任せられない。私がもらうから」 沙央莉が宣言したそのとき、病室のドアが開いた。 「沙央莉ちゃん、今の、本当?」 目を輝かせて立っていたのは、オレの妻になるはずの女性だった。 ゴール目前。オレは盛大にコケてしまった。
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